ものぐさ楽曲分析

自由きままに不定期な楽曲アナリーゼ。

キリンジ - Mr.BOOGIEMANのアナリーゼ ~J-popで読み解く、モーダル・インターチェンジ~

さて、今回もやってまいりました!



第2回目となる今回の対象楽曲はキリンジのMr.BOOGIEMAN!!


https://youtu.be/DGXNW31vPUA


弓木英梨乃さんによるヴォーカルがキュートで、アーバンかつオシャレな楽曲です♪



キリンジといえば、ぱっと聴きはオシャレなJ-pop。
しかし、分析してみると実は音楽理論的に高度で様々な技巧が凝らしてある、というサウンドモデルが印象的ですが、この曲も例外ではありません!





一見、判読不明なコード進行が現れます。

今回も例に習ってざざざっとコード進行を書き出してみましょう♪


[|: E7(♭5) - A♭△7│G♭△7│F7(♭9)│A○7 - A♭/B♭│

│B♭m7 - A♭△7│G♭△7│F7(♭9)│A○7 - B♭m7 :|]



以上はサビのコード進行のループです。


どうでしょう?
ぱっと見て、トーナルがどこにあるかわかりませんよね?


メジャー・セブンスのコードが連続して現れてるし、転調してるんでしょ?
と、思われるかもしれません。




ですが…
後から説明するように、実は転調は行われておりません。




順を追って解説していきます。
このような、複雑なコード進行を前にした時に、最初にする事は何か…?







まずは、ジーっと眺めてみましょう(笑)








さぁ、何か見えて来ませんか??




注目すべきは、この部分。


│G♭△7│F7(♭9)│A○7 - B♭m7│




ディグライジングするとこうなりますね。

│♭Ⅵ△│Ⅴ7│Ⅰm7│


※A○7はF7(♭9)の転回形かつ、パッシング・ディミニッシュとして考えます。




そうなんです!
この部分、超ポピュラーな定番進行ですよね?



R&Bなんかで多用され、R&Bのアルバム買ったら、下手したら半分くらいはこの進行なんて事も…(笑)?





J-popで有名どころだと、

椎名林檎(東京事変) - 丸の内サディスティック〉

とか

ゲスの極み乙女。 - キラーボール〉



J-popではないですが、個人的に大好きな

〈DC/PRG - mirrorballs〉



洋楽だと、大変有名な

Grover Washington, Jr. - Just the two of us


なんかが、まさにこの進行です♪


もちろん、他にもたくさんあるので是非探してみてくださいね!







とまぁ、若干話題が横滑りしましたが、
Mr.BOOGIEMANに話を戻しましょう。



このように、一見して複雑なコード進行も、部分的に見る事である種の突破口を切り開くことが出来ます。





ひとまず、この楽曲のキーが[B♭マイナー]であることが推測されましたね?


わかる範囲でディグライジングしてみましょう!




│ E7(♭5) - A♭△7│G♭△7│F7(♭9)│A○7 - A♭/B♭│

│? - ?│♭Ⅵ△7│Ⅴ7│?│

│B♭m7 - A♭△7│G♭△7│F7(♭9)│A○7 - B♭m7 │

│Ⅰm7 - ?│♭Ⅵ△7│Ⅴ7│Ⅰm7│

こうなりますね?




ずいぶんスッキリしてきました♪

問題は残りの部分です。




まず、A♭/B♭ですが、これはB♭m7の変形パターンです。

♭Ⅶ/Ⅰ型なんて呼ばれ方をして、メジャー・ダイアトニック環境で考えると、Ⅱm7、Ⅴ7、Ⅵm7で使用可能なハイブリッド・コードですね(主にⅤ7で多用されます)。



マイナー・キーのⅠm7=メジャー・キーのⅥm7なので、この場合も問題なく使用できるというわけです。






あとは、
E7(♭5)とA♭△7をどう紐解くか、ですが…。








ここで唐突に登場するのが…



モーダル・インターチェンジ!!



少年マンガの必殺技みたい(笑)






まぁ、それはともかく…
モーダル・インターチェンジとは何ぞや?と。




モーダル→モード→旋法




簡単に説明すると、
他の旋法(モード)から和音を借りて来ちゃおうぜ♪

ってことです。





よく使われる例をあげると、


Key=C

│F△7│Fm7│Em7│Am7│

│Ⅳ△7│Ⅳm7│Ⅲm7│Ⅵm7│


この二小節目の[Ⅳm7]なんか典型的ですね。
マイナー・キー(エオリアン)から和音を借用してるんです。






んじゃあ、この曲はどのモードから和音を借りてきてるのか?

そのカギとなるコードがA♭△7です。



ディグリーで考えると♭Ⅶ△7になりますね?





チャーチ・モードの中で、この♭Ⅶ△7を持つモードを探ってみると…


ドリアン
B♭m7 Cm7 D♭△7 E♭7 Fm7 GΦ A♭△7
[Ⅰm7 Ⅱm7 ♭Ⅲ△7 Ⅳ7 Ⅴm7 ⅥΦ ♭Ⅶ△7]

ミクソリディアン
B♭7 Cm7 DΦ E♭△7 Fm7 Gm7 A♭△7
[Ⅰ7 Ⅱm7 ⅢΦ Ⅳ△7 Ⅴm7 Ⅵm7 ♭Ⅶ△7]


と、この2つのモードが候補になります。



│ E7(♭5) - A♭△7│G♭△7│F7(♭9)│A○7 - A♭/B♭│

│B♭m7 - A♭△7│G♭△7│F7(♭9)│A○7 - B♭m7 │




5小節目にご注目!

│B♭m7 - A♭△7│

この2つのコードはどちらもドリアン・モードに属していますね?


つまり、この部分はドリアン・モードへモーダル・インターチェンジが行われている、と言うことができます。





では、1小節目のA♭△7もドリアン・モードへのモーダル・インターチェンジなのか?




ところが、そうではないんですね~。



そう考えてしまうと、ド頭のコードE7(♭5)の説明が付かないのです。


さすが、キリンジ
アナライズも一筋縄ではいきません(笑)!





当然、ここでネックになるのはこのE7(♭5)です。

このコードはドリアン、ミクソリディアンのどちらにも属しておりません。




実はこのE7(♭5)を解析するヒントは、ミクソリディアン・モードに隠されています。


仮に、ミクソリディアン・モードへのモーダル・インターチェンジだと想定して、ミクソリディアンの持つB♭7[Ⅰ7]に注目しましょう。


ここでまたしても、ジーっと眺めます(笑)




B♭7





「こいつ、いっつもコード眺めてんなぁ…」
と、思ったそこのあなた!


鋭いです(笑)!


しかしこれ、以外と大切な事なんです!






重要なのはこのコードがセブンス・コードである、という点です。




セブンス・コードです!
くどいようですが(笑)






セブンス・コードの持つ特性として、トライトーン・サブスティテュエーションが頭に思い浮かぶ方も多いと思います。


つまり裏コードの可能性です。



B♭7の裏コードは…?









そうだね!
E7だね(笑)!!



さらに(♭5)の音は、テンションとして考えると(#11)という事ができますね?


E7(♭5)=E7(#11)omit5となり、
Eから見て(♭5)あるいは(#11)とはB♭の音になります。




ようするに、

E7(♭5)は、ミクソリディアン・モードのB♭7[Ⅰ7]を裏コードに変換したものであり、テンションとして(#11)を付与し5度をomitしたコードであると結論できます。


強引に B♭7(#11)omit5/E と捉えることもできますね(笑)



※#11の音(この場合はEの音)が入る事により、正確にはミクソリディアンの旋法の範疇からは外れてしまっています。しかし、これは1つの拡大解釈として捉えて問題ないと思います。






これで全ての謎が解けました♪





│ E7(♭5) - A♭△7│G♭△7│F7(♭9)│A○7 - A♭/B♭│


│B♭m7 - A♭△7│G♭△7│F7(♭9)│A○7 - B♭m7 │


このコード進行では《1小節目と5小節目でモーダル・インターチェンジが行われており、それぞれミクソリディアンとドリアンを提示している》というのが、今回のアナライズの結論になります!




以上、今回も一見するにミステリアスでなかなか解読に骨が折れるコード進行でしたが、無事にアナライズする事が出来ました。


これだけ複雑な事をやりつつも、それを感じさせずクールに聴かせてしまうキリンジの手腕は流石だとしか、言いようがありません。



次回はキリンジの別の楽曲を取り上げるか、もしくはJ-popにおけるモーダル・インターチェンジの使用例を取り上げるかのどちらかを予定しております。




今回も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!



それでは、また次回♪


お疲れ様でした~ノシ


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