Stevie Wonder - Sir Dukeのアナリーゼ ~#Ⅳm7についての考察~
さぁ、やってまいりました!
当ブログ、記念すべき第一回の分析対象は…
言わずと知れた名曲中の名曲、Stevie WonderのSir Duke!!
知らない人はいないと思われるほどの、超有名な曲なのですが、実はこの曲、サビの部分に解明困難な謎の和音が存在するのです!
さっそく該当部分を見てみましょう!
サビのコード進行をざざざっと書き出すと…
│B│Fm7(11)│E△9│C#m7 - F#7│
だいたいこんな感じです!
基本的にはこの進行のループですね~。
楽曲分析の基本中の基本!
こいつらをディグライジングしていきます♪
そうすると…
│Ⅰ│#Ⅳm7(11)│Ⅳ△9│Ⅱm7 - Ⅴ7│
こうなりますよね?
じっくり、順番に見ていきましょう!
まずは1小節目の│B [ Ⅰ ]│
この曲のキーはBメジャーなので、これはトニック。
問題ないですね。
2小節目はメインディッシュ♪
なので……
お楽しみは最後に(笑)
次に、3小節目の│E△9 [ Ⅳ△9 ]│
Bメジャー・キーの4番目の和音サブドミナント。
これも問題ありません。
んで、4小節目の│C#m7 - F#7 [ Ⅱm7 - Ⅴ7]│
[ Ⅰ ]に向かう、とぅ~ふぁいぶ(笑)
いわゆるケーデンスですね♪
ここまでは非常にシンプルです。
何の苦もなくアナライズできましたね?
しか~し、
ここからが問題なのです…。
2小節目の和音 │Fm7(11)│
つまり、#Ⅳm7(11)
ひとまず、メジャー/マイナーのダイアトニック・コードを書き出してみます。
〈Bメジャー・キー〉
B△7 C#m7 D#m7 E△7 F#7 G#m7 A#Φ
[ Ⅰ△7 Ⅱm7 Ⅲm7 Ⅳ△7 Ⅴ7 Ⅵm7 ⅦΦ ]
〈Bマイナー・キー〉
Bm7 C#Φ D△7 Em7 F#m7 G△7 A7
[ Ⅰm7 ⅡΦ ♭Ⅲ△7 Ⅳm7 Ⅴm7 ♭Ⅵ△7 ♭Ⅶ7 ]
おわかりいただけますか??
この和音、メジャー/マイナーどちらのキーにも存在しないのです。
さらに言ってしまうと、セカンダリー・ドミナントや裏コードでもありません…。
この和音の正体は何なのか……?
困った時の第一歩として、
まずは、Fm7(11)の転回形を探ってみましょう!
すると、どのような和音が生成されるのか?
結果は以下の通り~。
A#7sus4(9)
Cm7(11,♭13)
D#7sus4(9,13)
G#7(9,13)
やや強引なコードネームも多いけど…
Bメジャー・キーにおける、これらの和音の機能を調べてみましょう。
A#7sus4(9) → D#m7[ Ⅲm7 ]のセカンダリー・ドミナント
Cm7(11,♭13) → 該当なし
D#7sus4(9,13) → G#m7[ Ⅵm7 ]のセカンダリー・ドミナント
G#7(9,13) → C#m7[ Ⅱm7 ]のセカンダリー・ドミナント
この中で、機能和声的に一番しっくり来る和音はどれか?
そうだね!!
G#7(9,13) だね(笑)!
何故か??
2小節目の和音をG#7(9,13) に置き換えると
│B│G#7(9,13)│E△9│C#m7 - F#7│
ディグライジングすると
│Ⅰ│Ⅴ7/Ⅱ│Ⅳ△9│Ⅱm7 - Ⅴ7│
こうなるわけです。
3小節目のE△9[ Ⅳ△9 ]はサブドミナントだから、
C#m7[ Ⅱm7 ]と互換性がありますよね?
│Ⅰ│Ⅴ7/Ⅱ│Ⅱm7←→Ⅳ△9│Ⅱm7 - Ⅴ7│
│B│G#7(9,13)│C#m7←→E△9│C#m7 - F#7│
こうする事が可能です。
A#7sus4(9)とD#sus4(9,13)はそれぞれ、Ⅲm7とⅥm7に対するセカンダリー・ドミナントでしたね。
Ⅲm7もⅥm7も、どちらも和声機能としてはトニックです。
Cm7(11,♭13)に関しては、そもそもBメジャー・キーで該当する機能はありません。
それゆえ、G#7(9,13)が第一候補になりうるのです。
コードネーム的にも唯一無理のない和音ですね。
と、言うわけで
該当部分をピックアップし段階を経て説明すると…
│G#m7(9,13)│C#m7│
Ⅱm7とⅣ△9の入れ替え
│G#m7(9,13)│E△9│
G#m7(9,13)を転回形に変更
│Fm7(11)│E△9│
このようになります。
つまり、
Fm7(11)[ #Ⅳm7(11) ]の正体は……?
《Bメジャー・キーの[ Ⅱm7 ]のコード、C#m7に対するセカンダリー・ドミナントG#7が、Bメジャー・キーの[ Ⅳ△7 ]のコードにE△7に偽終止し、さらに、そこからその和音を転回させた形である》
と、このように結論付ける事が出来るのだ~!!
無事にアナライズ完了です♪
セカンダリー・ドミナント、テンション、転回形と様々な形でカモフラージュされていた和音も、緻密に構造分析を試みれば、この様に謎を解き明かす事が出来るのでした♪
…と、
ここでアナライズ終了でもいいのですが…。
さらにもう一歩!
思いきって踏み込んでみましょう。
ここから先は完全に私の仮説の領域ですが、
よろしければ、もう少しだけお付き合い下さい。
│Fm7(11)│E△9│
これ…よ~く見て下さい。
ちょっと、惜しくないですか(笑)??
何がって(笑)?
これ…
│F7│E△9│
こうだったら、スッキリしませんか(笑)?
この形なら完全なる裏ケーデンスですよね?
何も悩む必要ありませんよね…??
おそらく、Stevie Wonder氏は最初以下のように和音を当てはめたのです。
│F7(#9)│E△9│
ところが、それだと問題が……
この部分、ウタのメロディがコードに対して#9thと11thの音が使われているのです。
なので、
F7(#9)のままだと、歌メロの11thとコードトーンのM3rdがぶつかって、不協和音になってしまう。
それゆえ、Stevie Wonder氏は
F7(#9)のM3rdを避けて、F7sus4(#9)に変更したと考えられます。
ところが…
この#9thのテンションが癖モノでして、7thコードにおいて、#9thというテンションはM3rdのコードトーンとセットで初めて使う事ができるテンションなのです。
何故なら、#9th=m3rdでもあるので、M3rdが欠如してしまうと、和音がマイナーコードとして認識されてしまうからです。
理論上、F7sus4(#9)という和音は7thコードとしての機能を持ちえません。
どういう事かというと、
F7sus4(#9)はM3rdの欠如により、#9thがm3rdへ、sus4が11thへと、それぞれが横滑りを起こし、聴き手にFm7(11)として認識されてしまう…という事です。
だんだん真相が見えて来ましたね…?
しかしながら、矛盾した表現になりますが、理論上は破綻をきたしているこの部分をStevie Wonder氏はあくまでも、以下のように捉えていると思われます。
│Fm7(11)│E△9│ ではなく→ │F7sus4(#9)│E△9│
ここが〈Sir Duke〉のヤバい所です(笑)!
《凡人の耳にはマイナーコードとして認識されてしまうこの和音を、世紀の大天才である彼は裏コードが拡大解釈されたパターンとして聴いている》のです…!
んんー、天才恐るべし……
思わず唸らずにはいられません(笑)
以上は完全に私の仮説(もっとヒドく言うと妄想)なのですが、たぶんこのような理解で正しいかと思われます。
さて、第1回はここで終了になります。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
ある程度、音楽理論に対する理解があることを前提に話を進めて来たのですが、いかがだったでしょうか?
このような形で少しずつではありますが、様々な楽曲をアナライズし、楽曲の持っている魅力や秘密の部分に光を当てていけたらなと思います。
今後とも是非、当ブログを宜しくお願い致します。
それでは、お疲れ様でした~!
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