Mr.Children - 抱きしめたいのアナリーゼ ~ヒット曲から学ぶ、華麗なる転調~
さて、今回はタイトルにもありますように、転調について考察してみたいと思います。
転調と一口に言ってもいろいろな種類があり、平行長短調を行き来する転調、同主長短調を行き来する転調、さらには全く関係のない調への転調など、上げればキリがないほど多種多様でして〈音楽理論における最後の砦〉とか〈魔女の秘薬〉なんて、言う人もいます。
そのくらい転調は謎めいていて、場合によっては魔法みたいにミステリアスで魅力的な効果を及ぼしたりするのですが、まぁ、正直に申し上げて転調に関しては理論が確立されていないんですね…。
ある調からある調へ転調すれば○○な効果が獲られる!なんてロジックは通用しないわけです。
それではどうするのかと言うと、転調が美しく決まった様々な例を考察して感動する(笑)、以外になすすべないと言いますか…。
まぁ、そうですねぇ。
「皆さん一緒に感動しませんか?」
ってのが今回のアナリーゼの趣旨になります(笑)
もちろん、アナライズを通して自分の作品の参考にしたり、援用したりする事は十二分に可能ですので…。
ちなみに、転調に関してはシリーズ化してガンガン考察していく予定です!
えー、そんなわけで、今回の対象楽曲は…
《Mr.Children - 抱きしめたい》
です!!
良い曲ですよね~。
ふとした瞬間思わず口ずさんでいたりします(笑)
それでは、どのような転調劇が繰り広げられているのか、さっそく見ていきましょう♪
〈イントロ〉
│B♭ - E♭/B♭│Am7 - Dsus4 D│Gm7 - C7│
│B♭ - E♭│Fsus4 - F│Gsus4│G│
Aメロ
│G - D/F#│Em - Bm/D│C - Cm│Am - Dsus4 D│
│G - D/F#│Em - Bm/D│C - Cm│Gsus4 - G │
Bメロ
│Am - D│Bm - Em│F#Φ - B7│Em - E7│
│C - D│Bm - E7│C - A7│Am - Dsus4 D/C│
サビ
│B♭ - E♭/B♭│F/A - D/F#│Gm - C│E♭- F│
│B♭ - E♭/B♭│F/A - D/F#│Gm - C│ F│
│E♭ - E♭m│Gm - C│E♭- Fsus4 F │
おわかりでしょうか?
この曲はイントロとサビはB♭メジャー・キー、AメロとBメロはGメジャー・キーとなっているんです!
イントロ~Aメロ、Bメロ~サビの流れがそれぞれ非常に滑らかで美しいですよね。
B♭→Gの流れは短3度下(長6度上)のキーへの転調で、一見無関係な調に思われますが、実はB♭から見て平行短調であるGmの同主長調Gとなり全く関係のない調への転調ではありません。
かろうじて(?)、関係調内での転調と言うことができます。
では、どのような手順で転調が行われているのか、見てみましょう。
まずはイントロ~Aメロです。
気がついたら、Gメジャー・キーに転調していた、というような印象を受けると思います。
実際、どのタイミングで転調しているのでしょうか?
│B♭ - E♭/B♭│Am7 - Dsus4 D│Gm7 - C7│
│B♭ - E♭│Fsus4 - F│Gsus4│G│
│G - D/F#│Em - Bm/D│~
ディグライジングしてみると…
│Ⅰ - Ⅳ/5│Ⅴ7/Ⅵ│Ⅵm7 - Ⅴ7/Ⅴ│
│Ⅰ - Ⅳ│Ⅴsus4 - Ⅴ│(転調?)→│Ⅰsus4│Ⅰ│
│Ⅰ - Ⅴ/3│Ⅵm - Ⅲm/3│~
と、Gsus4で突然転調してるように見えるかもしれません。
しかし、GからE♭まで遡ってディグライジングしてみると…
~♭Ⅵ│♭Ⅶsus4 - ♭Ⅶ│Ⅰsus4│Ⅰ│
このようになります。
簡略化すると[♭Ⅵ - ♭Ⅶ - Ⅰ]ですね。
[♭Ⅵ - ♭Ⅶ - Ⅰ]の動きはサブ・ドミナント・マイナーを利用した非常によく使われる進行です。
この[E♭- F ]は…
B♭メジャー・キーから見た場合[Ⅳ - Ⅴ]ですが、
Gメジャー・キーから見ると[♭Ⅵ - ♭Ⅶ]となります。
どちらのキーから見た場合にも、当てはまる機能を持っているわけですね。
このようなコードを〈ピボット・コード〉と呼びます。
どちらのキーにも当てはまるコードを経由した事により、転調がスムーズに聴こえていたんですね。
実に見事な転調だと思います♪
良い仕事してますね~(笑)
続いてBメロからサビにかけても見てみましょう!
Bメロの終わりから、サビ入りの部分です。
~│Am7 - Dsus4 D/C│B♭- E♭/B♭│~
~│Ⅱm7 - Ⅴsus4 Ⅴ/7│(転調)→│Ⅰ - Ⅵ/5│~
今度はずっとシンプルで、ちょっと強引ですらありますね(笑)
Gメジャー・キーのⅡm-Ⅴを経て、
ベースラインが[ レ - ド - シ♭ ]と下降する力を利用して、そのままB♭メジャー・キーに転調しています。
では、ここでの転調がスムーズに聴こえるのは何故か?
そもそも、Ⅱm-Ⅴの行き先はメジャー、マイナー問わずどちらに行く事も可能ですよね?
簡略化して考えると…
[Am7 - D7 - G]も[Am7 - D7 - Gm]もどちらも違和感はありません。
転調先のB♭のコードをGm7/B♭と解釈すると…
[Am7 - D7 - Gm7/B♭]=[Am7 - D7 - B♭]
となり、何故スムーズに聴こえるのか、理解がしやすいかと思います。
以上、《Mr.Children - 抱きしめたい》における転調、いかがでしたでしょうか?
ピボット・コードを駆使したり、ベースラインを滑らかに繋げたりと、細部まで緻密な計算が行き届いている、無駄のない進行による転調だと思います。
この楽曲では転調部分以外にも、美しいベースラインやコード進行が見られるので、皆さんも是非、詳しく分析してみて下さいね♪
転調シリーズ第1回はここで終了になります。
奥深き転調の世界をまだまだご紹介したいと思っておりますので、次回もご期待ください♪
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、また次回!!